先日お稽古のときに「家でお茶を点てるときどんな茶せんを使っていますか」とうかがったところ、「八十本立ての茶せんをAmazonで買いました」という方がいらっしゃって衝撃を受けました。一言ご相談いただければ別のものをお勧めしたでしょう。
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 私たちが学んでいる裏千家流では薄茶の表面全体にふんわりと泡の立った姿を理想としています。八十本立を使うと比較的簡単に泡を点てることができそうな気がしますね。インターネットで茶せんを検索すると百本立、百二十本立などというものもあります。○○本立というのは穂の数の目安です。実際に八十本、百本ちょうどの数というわけではありません。

 でも、これらの茶せんは裏千家のお点前では使いません。使うのは「数穂」という種類です。  お家元がお使いになるのは白竹の「真数穂」です。数穂と真数穂は穂の形(全体のシルエット)が違いますが、どちらも穂の数は四十八本から六十四本くらいです。

 なぜ、泡のたちやすそうな八十本立ではなくわざわざ数穂を使うのか。それは穂ではなく持ち手にあたる軸の部分に違いがあるからです。穂の数を増やすためにはより太い竹を使わなければ茶せんが作れません。つまり軸の部分は数穂<八十本立<百本立<百二十本立とどんどん太くなっていくわけです。

 太い茶せんを持つとどうしても五本指で鷲掴みにする形になってしまいますが、お点前のときはそれでは美しくありません。お茶のお稽古のときに習ったような持ち方をするためには、太すぎる茶せんは不向きなのです。

 また、軸が太くなればなるほど「振る」のが難しくなります。筒茶碗のように口径の小さい茶碗になると、少し軸の細い茶せんでないと振ること自体難しいでしょう。

 家で八十本立を使っていると、そのときの振り方の癖がお点前のときに出てしまいます。 お点前を習わずに薄茶だけを飲みたいという方、喫茶店や日本料理屋さんなどお点前なしで薄茶を提供したいという方は別として、お茶のお稽古をされている方はそのご流儀で使われている茶せんを購入した方が良いでしょう。

 裏千家流なら白竹の数穂、または真数穂を買う、ということですね。
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 そして次に「どこで買うか?」ですが、可能ならご自身の先生にお願いして買ってきてもらうか、先生が購入されているお茶道具屋さんから買ってください。白竹の数穂は一本三千円、真数穂なら四千円というのがだいたいの目安です。

 ええ!Amazon ならもっとずっと安いのに。と思われた方、Amazonで売っている安価な茶せんのほとんどが中国産です。中国の茶せんがすべてダメとは言いませんが、あたりはずれがあります。買ってはみたもののすぐに穂が折れた、なんだかお稽古のときとお茶を点てるときの感触が違う、それは仕方がありません。中国産の茶せんは国産の茶せんを真似て作られた模造品です。

 国産の茶せんを作る竹は時間をかけて乾燥させたものが使われますが、中国産の茶せんは乾燥にかかる手間を省略するため、防腐剤や防カビ剤などが使われているものもあるそうです。

 国産の茶せんは茶せん師による手作りで、奈良県生駒市高山町にあるわずか十数軒だけがその生産を手掛けています。手作りですから作り手によって同じ白竹の数穂でもそれぞれ特徴があります。私たちの流水会で使っている茶せんは「和北堂 谷村丹後」と「竹茗堂 久保左文」です。

 裏千家の関連会社である淡交社で扱っている茶せんは前述の谷村丹後と「翠華園 谷村弥三郎」です。以前当代の谷村丹後さんの講演を聞いたことがありますが、裏千家のお家元は丹後さんの真数穂をお使いだそうです。

 茶道具屋さんによっては茶せん師のブランドを出さずに、自社ブランドで茶せんを売っているお店もあります。たとえば「清昌堂やました」さんの茶せんはやましたブランドです。亡くなった私の師匠はいつもこちらで購入されていました。

 茶道を学んでおられる方はご自身の先生が使っているのと同じ茶せんを選べば間違いがありません。買い方は先生がご存知です。先生を介すると同じ茶せんでもインターネットで検索して出てくるお値段より安く購入できるケースも多いと思います。

 事情により先生に頼めないという方、昨今では茶せん師さんがインターネット通販で直販もしていますからそれを利用する手もあります。(別途奈良県からの送料がかかります)

 いずれにしましても茶せんは直接抹茶と触れるものですから「お茶が点つならなんでもよい」「安ければ安いほど良い」などとは言わずに、ご自身の茶道のお稽古に役立つものを選んで購入しましょう。